1.間違いやすい敬語①_なるほどですね
ビジネスシーンでよく使われる、間違いやすい敬語の中でも、特に誤用されているものの1つが『なるほどですね』です。 周囲で気軽に使用している人を見かけたり、上司や部下が電話で気軽に使っていたりして、違和感を覚えた人も多いのではないでしょうか。
『なるほどですね』という言葉には、標準語で「あ~、そうなんですね」というニュアンスが含まれています。 相手の意見を自分が理解していると伝える言葉で、お客様とのフレンドリーな雰囲気を作るため、しばしば接客・営業の場面で用いられることがあります。
ルーツは九州方面の方言とされており、相手への友好的な気持ちを表す『なるほど』に、目上の人に対する丁寧語として『ですね』がプラスされたものと解釈できます。 テレビドラマの中で、特定の人物の口癖にされていたこともあり、意味が分かりやすく全国的に便利な言葉として広がったものと推察されます。
もちろん、この『なるほどですね』は正しい敬語ではありません。 本来、なるほどですねの『なるほど』は感嘆詞として用いるため、敬語に用いるのはNGです。
・『なるほどですね』を正しい敬語にすると?
『なるほどですね』が持つ「あ~、そうなんですね」という気持ちを、敬語にして相手に伝えるためには、基本的に次のような敬語に言い換えます。
◆左様でございますか
◆左様ですか
左様という言葉は「そのよう」・「その通り」という、相手に対する肯定・賛同を示す言葉です。
また、ございますは「ある」の丁寧語となるため、これらを合わせた『左様でございます』は、相手に対する最大限の敬意を含んだ肯定と解釈できます。
接客中など、口語でのやり取りの場合は、ございますを省いた『左様ですか』でも問題ないでしょう。
よりくだけた表現で伝えるならば、『そうなんですか』を使って、相手の発言に理解を示す方法もあります。
2.間違いやすい敬語②_○○社長様
メール送信時や電話での通話中に、相手の名字に社長・部長などの役職をつけた後、つい『様』をつけてしまうことはありませんか?
その気持ちはとてもよく分かりますが、この使い方は敬語として間違いです。
もし、取引先の担当者が役職に就いていない場合は、名字に『~様』とつける必要があります。
ところが、役職の場合はそれ自体が敬称となるため、『~社長様』・『~部長様』といった使い方をすると、二重敬語になってしまうのです。
敬語を意識するという点では、非常に良い心がけではありますが、結果として失礼にあたらないよう注意したいところです。
なお、慣習的に『社長様』・『部長様』といった言葉の使い方をしている人もいますが、そのような場合、すでに会話をしている2人の間に信頼関係ができあがっていて、あえて直していない状況が考えられます。
上司や先輩がそう呼んでいる場合は、事前に事情を把握した上で、呼び方を統一するのがよいでしょう。
・電話・メールは「ひと工夫」してスマートに
基本的に、役職者と電話で通話する場面では、『~社長』・『部長』のように役職名だけで問題ありません。
ただし、電話を取り次いでもらう場合は『社長の~様はいらっしゃいますか?』と伝えましょう。
ビジネスメールの宛名としては『会社名+役職名+○○様』の型を覚えておきましょう。
例えば「株式会社○○ 総務部部長 △△様」といった書き方になります。
取引が浅く、コーポレートサイトなどで社長の名前が確認できない場合、ついつい『社長様』と使いたくなりますが、やはりこれもNGです。
社長名が不明の場合、メールでは『株式会社○○ 御中』とするのが一般的です。
3.間違いやすい敬語③_せざる負えません
ワープロやパソコンで文章を打つ機会が次第に多くなってきた時代、いわゆる「誤変換」が話題にのぼることがありました。
現代でも、ビジネスシーンで「返信不要です」を「変身不要です」と間違えるなど、恥ずかしい思いをする罠は数多く存在します。
『せざる負えません』も、そのような誤変換から生まれたのではないかと推察されますが、皆さんの中にも、この言葉を間違って使ってしまったことのある方がいらっしゃるのではないでしょうか。
正解はもちろん、せざる負えませんではなく『せざるを得ません』です。
せざる負えませんは、本コラムでご紹介する言葉の中でも、特に間違えやすい言葉の一種と考えています。 一概には言えませんが、日本人の活字離れが進む中で生まれてしまった、新しい間違え方の一種なのかもしれません。
この言葉を誤って使わないためには、言葉の構造を知ることがカギになります。
・文法で知る『せざる負えません』と『せざるを得ません』の違い
まず、誤用である『せざる負えません』は、そもそも文法的に意味不明の構造になります。
せざるは「動詞(せ)+助動詞(ざる)」の組み合わせになりますが、負えないは形容詞なので、負えないを述語として使うことも、修飾語として使うことも難しいでしょう。 それぞれの意味は「しない」・「どうしようもない」ですから、無理やり意味をつなげると『しないどうしようもない』といった、意味不明な言葉になってしまいます。
次に正しい『せざるを得ません』ですが、こちらは「しないわけにはいかない」という意味で用いられる言葉です。
この言葉を分解すると、せざる/を/得ませんという3つのブロックに分かれていて、“せざる”と“得ない”で二重に否定をしていることが分かります。
それぞれの言葉の意味をつなげて考えると、つまり「しないことができない」=「確実にしなければならない」という形で、意味をイメージすることができるでしょう。
『せざるを得ません』を使用する際は、『止むを得ない』を使用するイメージで考えると、どちらの表記が正しいのか分かりやすいかもしれません。
4.間違いやすい敬語④_拝見させていただきます
メールよりは話し言葉で間違えやすい敬語表現の1つに『拝見させていただきます』があげられます。
言葉の響きもよく丁寧な印象を受けるため、一見正しい敬語のように見えますが、実はこちらも二重敬語です。
まず「拝見」とは、自分の行動をへりくだって言う謙譲語になります。
次に「させていただく」に関してですが、こちらも「させてもらう」の謙譲語です。
単純に『拝見します』とするのであれば、謙譲語+丁寧語で、そのまま使うことができます。
よって、『拝見させていただきます』ではなく、『拝見します』が正解です。
ちなみに、これを「拝見いたします」にすると、相手にはより丁寧な響きに聞こえますが、二重敬語なので誤りです。 こちらの例も、敬語の使用を意識するあまり、誤った表現になってしまったケースと言えるでしょう。 違和感を覚えにくい分、間違えやすい敬語表現ですが、一度覚えれば忘れにくいパターンかもしれません。
5.おまけ_『いたします』と『致します』の違い
ビジネスシーンで慣習になっている表現は、あまり深く考えずに使っていることも多いものですよね。
例えば、「よろしくお願いいたします」や「致しかねます」など、ビジネスにおいて“いたす”という発音の言葉は、頻繁に用いられています。
この“いたす”についてですが、ひらがなの「いたす」を使う場面と、漢字の「致す」を使う場面について、使い分けがよく分からないまま、何気なく使ってしまっていませんか?
実は、この2種類の表現は、場面によって使い分けが必要な言葉なのです。
・『いたします』の構造と意味
まず、『いたします』とは、補助動詞という品詞に分類され、別の動詞の後について文法的機能を果たします。
ビジネスシーンにおける具体例としては、以下のようなものがあげられます。
◆よろしく「お願いいたします」=「お願いする+いたす」
◆ご迷惑を「おかけいたします」=「おかけする+いたす」
それぞれの言葉を分解すると、“~する”という動詞に“いたす”という補助動詞がくっついていることが分かります。 『いたします』の“いたす”は「する」の謙譲語、“ます”は丁寧語となっていて、自分がへりくだるシーンで使える表現であると分かります。
・『致します』の構造と意味
次に、『致します』についてですが、こちらは動詞の「する」の丁寧語にあたり、「あるところまで到達させる・引き起こす・もたらす」といった意味があります。
ビジネスシーンにおける具体例としては、以下のようなものがあげられます。
◆弊社で「致します」=「します→致します」
◆不徳の「致すところです」=「する→致す」
『いたします』との違いとして、『致します』は補助動詞ではないので、何らかの動詞にくっついておらず独立している点があげられます。
自分から相手に向けて行動する際に使える表現のため、例えば「新たに費用が発生致します」のように、お客様に向けて使用するのはNGです。
やや紛らわしい表現ではありますが、『いたします』と『致します』を場合によって使い分けることで、より丁寧な文を作ることができるでしょう。
6.まとめ
ビジネスシーンで必須となる敬語は、あまりに意識しすぎても間違えてしまう可能性がありますし、崩しすぎても違和感が残ります。
また、過剰に使いすぎると慇懃無礼(いんぎんぶれい)になるおそれがありますから、使い方がとても難しいですよね。
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